喫茶店の計画が有って現場を見に行ってくれと言われました。
行きましょう! と言いながら、、、
その計画店の道路を挟んだ正面にリコーダー制作会社が有り、ショウルームとミニ演奏会場、その奥に製作場が有りました。
入ってみると実に細長い敷地で入り口からは想像できない奥行。
ショウルームを抜けると異次元の空間が広がっていました。古い建物にぎっしりと詰め込まれた工作機械。そして世界から集まってくる貴重な材料である銘木群。ツゲ、紫檀、圧縮乾燥された檜、カリン、グレナディラ、等々。
奥の院?で数年寝かされているそうです。その木の香りは素晴らしい。
奥行きと共に2階、3階と縦方向にも制作場は続いており、極めて急な階段をよじ登って行くと更に機械が並んでいました。
ここはとてつもないオモチャ箱です。
その工場の先代がヨーロッパへ飛び、採寸したという400年前のリコーダーのデータの数々。採寸といってもどうやって測ったのでしょう?
細かいデータを惜しげも無く見せてくれました。
現社長のサービス精神と人柄に軽く目眩しました。
製作途中のリコーダーの一部をひょいと手に取り、「触ってみて」と手渡されてみると、5本の指に伝わる実に気持ちいい感触。
木って重たいんだなあ。
「比重1.2ですよ」水に沈むんだ。
「チューニングは穴の奥側から削って徐々に大きくしていくんです」外科手術用のメスを握り、削りながら説明してくれました。チューニングマシーンがまたすごいです。レコードのターンテーブルで回転数を合わせる時に使うストロボスコープが沢山並んでいるような物で、多数のスコープがくるくる回る様はとても見飽きるものではありません。
単なる筒では無いリコーダー。
中の細長い穴は一次関数では無く、微妙で複雑な曲面が施されているのです。
なんと繊細な仕事なのでしょう。
これらのノウハウは全く隠していないそうです。公開されても真似できない。
プラスチックや金属では無い、木だからでしょうか。まさに木は生き物。
まずは工具や機械を作る事から始めなくてはならないようです。
法隆寺系宮大工の西岡棟梁は、奈良時代の材木削り口より当時の工具を解き明かし、再現された事が広く知られていますが、ここでも同じく、400年前の完成品の姿形から独自に工作機械の改造を重ねられたようです。
ところで、現代は3Dスキャナーも有って、工業製品の形状数値化がかなり進んでいます。
このリコーダーを3D cad date 化して3D print するなどという事が出来てしまったら(既に可能ですが)この音を再現する事が出来るのでしょうか。勿論、素材の固有音が有るので、実は同じ音になる事はあり得ないのですが、しかし3Dプリントの素材なりの音がするはずです。これは音の善し悪しの問題では無く、傾向の問題かもしれません。
3D print だけでは無く、木工用のNC旋盤、lasercutter も有りますし、一抹の不安と面白さを感じるものが有ります。
名器の3D date がネットで流通する事が今後有るのではないでしょうか。